NTT澤田社長「再び日本を強くする」

4.3兆円の巨費を投じてNTTドコモを完全子会社化すると決めた。競合に押され、携帯料金の値下げ圧力が強まる中の守りの一手とみる向きもある。だが、決断の背景にあるのは日本の競争力への強烈な危機感だ。 PROFILE 澤田 純[さわだ・じゅん]氏1978年京都大学工学部卒業、日本電信電話公社(現NTT)入社。設備業務を担当した後、96年に再編成室でNTT再編に関わる。NTTアメリカ副社長、NTTコミュニケーションズ副社長などを経て2018年から現職。NTT持ち株会社では過去3代続いて労務畑経験者が社長に就いたが、約20年ぶりの理系トップに。三菱商事やトヨタ自動車、NECとの提携などを矢継ぎ早に進めている。 ドコモの完全子会社化の発表でNTTの株価は下がりました。市場は料金値下げなど短期的な面に目が向いたのでしょうが、本当の狙いはもっと別なところにあるのではないですか。  短期的な目標は(KDDIとソフトバンクに売上高、営業利益で抜かれて)3番手になってしまったドコモの強化による、グループ全体の強化です。結果的に携帯料金値下げの余力は出ますが、これを政府や官庁と相談して決めたわけではありません。  こう決断せざるを得ない環境になっていたのです。米ソ冷戦終結以降のグローバリズム経済が、ここ数年でローカリズムや自国ファースト、あるいは経済安全保障という考え方に変わってきたことが背景にあります。  日本はグローバル化で工場が海外に移転し、国内に雇用や技術が残りにくくなっています。これでは次の技術を仕込むのが後手に回ってしまう。今や通信やIT(情報技術)の分野では、ハードもソフトもその多くを米国や中国に依存しています。  少子高齢化が進む日本は、技術をベースとした貿易立国として生きていくしかありません。ところが、もはやアプリの領域で「GAFA」に勝つのは難しいでしょう。さらに彼らは事業をクラウドサービスに広げ、通信インフラの分野にも出てきています。この領域では絶対に対抗しなければいけない。 官庁も環境の変化を理解  将来を考えると、移動通信と固定通信を融合したシステムにしていく必要があります。ところが現状は、持ち株会社の研究所とドコモの研究所が個別に技術を開発している。これを一緒にしようにも、両社の少数株主の問題があるのでドコモが上場したままでは難しい。そこで今年4月にドコモと話を始め、今日に至ったわけです。夏から議論に入った官庁にも理解を示してもらえたのは、彼らも環境の変化を感じていたということでしょうね。 次世代通信規格「5G」や2030年ごろの実用化を目指す「6G」をターゲットにした体制作りということですね。  現在の通信規格「4G」では、ノキア、エリクソン、ファーウェイという3大通信機器メーカーが交換機や伝送路、制御用ソフトなど全てを垂直統合で提供し、通信事業者がそれを一括採用する形態が多くなりました。でも、研究開発部門を持っている我々のような大手にとっては差異化が難しいという課題があった。  そこで5Gでドコモが提案したのが、異なるメーカーの通信機器を相互接続するための「O-RAN」という規格です。メーカー、特にファーウェイは垂直統合モデルを崩されるのを嫌がるわけですが、通信事業者は歓迎しています。これでゲームチェンジを起こせるのです。構造分離で、新たなメーカーが参入できる。世界シェアが1%に満たない富士通やNECも、世界の市場にもう一度参入するチャンスが生まれます。6月にNECへの出資を決めたのは、この動きを加速させるためです。

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三木谷浩史・楽天グループ会長兼社長 「うまくいかない理由は多くの場合『遅い』『官僚的』『目標設定が明確でない』」(2003年07月22日)

週刊エコノミストは創刊以来、数多くの企業トップにインタビューを試みてきました。その中には、後に会社を大きく成長させた創業者、経営者も少なくありません。彼らは取材に何を語ったのか。当時の誌面から、振り返ります。 およそ15年で巨大企業「楽天グループ」をつくり出した三木谷浩史氏。影響力ある発言で常に注目を集める一方、最近では、モバイル事業の長期低迷に伴う格付け引き下げなど、厳しい目で見られることも多くなっている。週刊エコノミストには2003年7月、右肩上がりの成長のさなかに、「経営者インタビュー」に登場している。当時の記事を再掲する。※記事中の事実関係、肩書、年齢等は全て当時のまま 楽天 三木谷浩史社長 2003年の経営者 2003年07月22日 Interviewer 西 和久(本誌編集長) 成功する「仕組み」を素早く作る ―― 売り上げも利益も、順調に伸びています。 三木谷(インターネット上のショッピングモール)楽天市場に1年前、新しいビジネスモデルを導入しました。従来の契約システムは、出店者より固定出店料を頂戴するモデルでしたが、100万円以上の売り上げがある出店者から売り上げに応じた流通マージンを頂戴するモデルに変更しました。流通マージンを、システム増強や積極的なマーケティング活動などの再投資に振り向けられるようになり、事業はさらなる成長軌道に乗りました。  楽天市場以外の事業、例えばポータル(総合情報サイト)事業やオークションなどのトレーディング事業なども順調に伸びています。さらに、新たに導入したポイントプログラムを通じて、マーケティングの仕組みを作ることができました。 ―― 社の入り口に大きいポスターが貼ってありました。三木谷さん発案の「成功のコンセプト」です。「常に改善、常に前進」「プロフェッショナリズムの徹底」「仮説→実行→検証」「顧客満足の最大化」「スピード!! スピード!! スピード!!」。3番目の標語は興味深いですね。新規ビジネスに取り組むことが多いので、これが大切なのでしょうか。 三木谷 実は「検証」の1段階上には「仕組み化」があります。成功事例を共有し、その仕組みを日々の業務に落とし込むことが重要です。落とし込むまではビジネス効率が上がりませんが、仕組み化した瞬間に効率が上がり、結果として利益率がグーッと上がるからです。 ―― 最後の「スピード」はよく分かります。 三木谷 結局、勝負はそこにあると思うのです。時間を掛けてゆっくりやれば誰にでもできる。いかに素早く、その仕組みをビジネス内部に組み込むか、が鍵なのです。 ―― この「コンセプト」、一般企業の社員なら、管理職になって初めて理解することではないですか。 三木谷 当たり前のことを当たり前にできれば、勝てるということです。逆にうまくいかない時の理由は簡単で、多くの場合「遅い」「官僚的」「目標設定が明確でない」「詰め切れていない」といったことなのです。我々にしても、仮説通りにうまくいかないことも数多くありますが、そんな時こそ、数値化した目標を日々管理して問題を明確化しています。事業にかかわるすべての数字は、毎日私が目を通します。 ―― 今後の成長ペースと目標は。 三木谷 楽天本体だけで言えば、今後3~4年間で、現在約1000億円の流通総額を1兆円にすることが目標です。こう言うと「何を大ボラ吹いているんだ」と思う方もいるでしょうが、楽天はゼロから始めてここまで成長しましたし、マーケットは今後も拡大を続けるでしょう。そう考えると、若干タイミングがずれることはあっても、確実に到達できる目標だと信じています。 ―― 確かに、以前は「日本人はインターネットで買い物などしない」などという声がありました。 三木谷 今では、そのようなことを言う人はいなくなりました。価格を比較すれば、インターネットショッピングがいかに合理的か分かります。昨年、大手家電量販店と製品ごとの価格比較を行った結果、楽天での価格の方が約2~3割安い商品が多かった。店頭販売に比べれば、マーケティングコストは圧倒的に低いし、店舗の賃料も不要、陳列在庫もいらない。受発注は自動で、データがそのまま入ってくる。  こうした状況を見ると、今後、インターネットショッピングの小売り流通に占める割合が、現状の数%から10%程度に到達しても何ら不思議はありません。 ―― 同規模の競争相手は国内にはいないのですか。 三木谷 いないですね。我々は集客力、システム、出店者への教育プログラムの三つをパッケージにして売っています。7年間掛けて作り上げた統合的サービスを、他が提供するのは難しいことだと思います。 ―― 5年後の姿は。 三木谷 成功しているインターネット企業はどこですか、と聞かれたら、皆に「楽天」と答えてもらえるよう、世界の1、2位を争う水準のサービスを展開していきたい。  また、若い人が活躍できるフィールドがあり、若い人の見本になるような元気企業でありたいと思います。日本経済最大の問題点は、企業が新陣代謝をせず、高度成長期の成功体験に基づいた人たちが、依然として経営に携わっていること。スポーツでも、昔の有名選手ばかり並べているチームは最初は強いのですが、3試合もすれば、若手をどんどん登用するチームが勝ってくるものです。   (構成=橋本明子・編集部) 横顔 Q 社長になって印象に残ったこと A 従業員が2人の時から社長なのですが、会社が大きかろうが小さかろうが、社長の元気によって会社の元気度も変わってくるのだなと実感しました。社長にエネルギーがあるかないかは、会社にとって、非常に重要なことだと思います。 Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか…

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